Psersonal record of experiences

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2019.4.20

鉄でいる。

ある、光。

「もえはなぁ。鉄なんだよ。わかるか?」
高校を卒業するときに、部活動の顧問の先生からそう言われた。
体育教官室に入ると目に飛び込む、美しい白髪。
大きい体と、グレーに少し水色を混ぜたみたいな先生の眼。
わたしたちの卒業と同時に定年退職が決まっていたその先生のことが、わたしはとても好きだった。
「えー?鉄って全然可愛くないじゃないですか〜」と、ふてくされるわたしに、先生はよく響く低い声でこう続けた。

「鉄は、熱くなると柔らかくなるだろ?打てば形が変わるだろ?それでなんにでも変われるんだよ。お前は頑固だ。でも、とても素直で好奇心旺盛で、愛らしい人だ。いつでも熱くなれるものに触れていなさい。変化を恐れずに打たれなさい。なんにでも形を変えなさい。そうして誰かを守ったり、誰かの役に立ったり、時に傷つけたりしながら。素晴らしい人生を送ってほしい。これから大人になっても、ずっと鉄でいなさい。」

3年間、気難しいわたしをとにかく優しく見守ってくれていたような気がする。
素直にみんなの前では言えなかったけど、わたしは先生のことをとても慕っていた。
春になると毎年その日の言葉を思い出す。
あの日から気がついたら17年も経ってしまった。
18歳だったわたしは35歳になり。
60歳だった先生は今年77歳になるはずだ。

わたしはきちんと柔らかい鉄でいれているのだろうか。
形を変える勇気を持てているのだろうか。
誰かを守ったり、役に立ったりする存在になれているだろうか。

昔のことを鮮明に思い出すようになったのは、なぜだろう。
先生の誕生日が近づくたびに。
葉桜とその下に落ちている桜の花びらを眺めるたびに。
体育教官室で話したあの時間を思い出す。

器なのか、道具なのか、飾りなのか、盾なのか、剣なのか。はたまた、ただの塊か。
先生、わたしはいまどんな形に見えますか?

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