あの日々。
- 2015.7.30
2013年が始まった頃、わたしは結婚をして妻になった。
今思えばその前から兆候はあったのだけど、結婚して少し経った頃
に夫が鬱病と診断された。
「生きる光が見えない。生きていくのがつらい。」力なく絞り出すような声で呟く
彼の顔を見たときの気持ちは今でも忘れることができない。
わたしにできることはなんだろう。
悩んだ末に辿り着いた答えは、わたしの目に映る光を彼に見せることだった。
共に暮らす日々を。共に眺めた景色を。わたしが感じた美しさや、尊さを。
彼が失ってしまった光を取り戻したくて、
わたしにとっての光はあなたなのだと気付いて欲しくて、
光にふれて欲しくて。懸命に記録を続けた。
愛する人に「死にたい」と言われる悲しさ。
〝もしも衝動的に命を断ってしまったら…〟と想像して泣きながら走って帰った
会社からの帰り道。
口にした瞬間、宙に浮かぶ励ましの言葉。一向に良くならない現状。
どんな顔をしたらいいかわからず、遠回りして帰った日もあった。
長いトンネルに迷い込んでしまったようなあの日々。
トンネルの隙間からうっすらと差し込む光を探して不安から目を背けるように、
何かから逃げるようにファインダーを覗いていたあの日々。
幸いにも少しずつ夫は元気になっていき、
会社にも行けるようになった。
笑顔が増えてきた頃に、わたしたちは新しい命を授かった。
あの頃の写真を振り返った時、そこに写っていたのはなんでもない光景だった。
帰省したときに散歩した瀬戸内海。旅行したときの夜空。
友人夫婦の姿。ベランダからの景色や洗濯物。
「笑って!」と言っても上手く笑えない夫の姿。
なんで撮ったんだろう。と自分でもよくわからない写真だってあった。
どれも、暗闇のなかで一生懸命手を伸ばしてつかまえた光たち。
迷ったり、悩んだり、落ち込んだり。
暮らしていく中で、ふと暗く深いトンネルに迷い込んでしまうことは誰にだって
ある。
出産を控えた中 大きくなっていくお腹にふれながら、家族の一員となった息子にもわたしと夫が見てきた世界を見てもらいたいと思った。
もがきながらも積み重ねたその日々は、それでも光にあふれていたのだと大きな声で伝えたいから。
阿部萌子 写真展「光にふれる」
会期:2015年8月18日(火)〜23日(日)
時間:12:00~19:00
※ 最終日は17時までとなります。
会場:Roonee247photography
住所:東京都新宿区四谷4−11みすずビル1F
電話:03-3341-8118