エール

  • 2022.04.26

「あのね、きょうここギュってされたの」
下校のバスから降りるなり、息子がそう言って同級生につねられたという腕を見せてきた。
「なにかあったの?痛い?」
そう聞くと、彼は「もう痛くない」と、首を振った。
「なんかねー、多分ぼくもよくなかったんだよねえ」そう呟くと彼は黙ってしまった。
「そうなんだね。心当たりはあるの?」
「あるような…ないような。でもこのこと、もうあんまり話したくない。」
「そっか!」と返事をしたあとに、ドーナツ買いに行こっか。と、遠回りをして帰った。

帰り道、手を繋いで歩く。
悪気がなくても、自分の言動が人を傷つけることがあること。
そして、自分も同じように悪気のない言動に傷つくことがあること。
このふたつを伝えた。
「大人になってもある?」
と聞かれて、思わず「あるよ!全然あるよ〜!」と、笑ってしまった。
「人を傷つけてる可能性があると思うと、人と関わるのが怖くなっちゃうよね。」そう、わたしが言うと
「かかって、ぼくが思うよりも大人じゃないのかもね」と、息子が笑ってくれてちょっと安心した。

相手の気持ちがわからないときは聞くこと。
自分の気持ちも伝えないと伝わらないこと。
「学校って、そういうことを勉強するところでもあるからさ。でも学校だけじゃないな、家族だってそうだよ。」
そう伝えると、息子は小さくうなづいた。

お友達とどんなやり取りがあって、何が起きたのだろうか。
とても気になるけど〝あんまり話したくない〟という彼の意思を尊重することが大事だと思って深くは聞かなかった。
こうして起きたことを話してくれるだけでも、わたしは息子に信頼してもらえているのかもしれない。
この信頼を裏切らないためにも、相手から引かれた一線は大切にしたい。

去年は一年間オンライン授業だったので、いつも息子は目の届くところにいた。
登校が始まって2週間。息子はわたしの知らない世界に飛び込んだんだなと思う。

ひとつのなにかが終わったような気がする。
積極的に世話を焼くというか、先回りして心配をしたりするタームは終わったんだなと思った。
これからは、彼がきちんと人を頼れるような見守り方をしたい。
気持ちを因数分解していくことの手伝いや、言語化することの手助けをそっとできたらいいなと思う。

息子の学校では給食がないので毎日お弁当を持たせている。
少しでも心強くなるように、明日のお弁当には息子が気に入ってくれたペンギンウィンナーを入れておいた。
お昼にお弁当を開けて、ちょっとでも元気になってくれたらうれしい。

もう、わたしが直接的になにかしてあげれることはそんなに多くないんだろうな。
歩き始めた頃に、コテンと息子が転ぶたびに
「自分で立ち上がって!手をついて、ヨイショーって!」
と、見守りながら応援をしていた日々をふと思い出してしまった。

新しい扉を開けていく息子の姿に、わたしも背中を押されている。
夫も、息子も、わたしも。
三人それぞれ頑張っていこうね。と、今日もエールを飛ばす。